22歳が選んだ「夏うた」 (その3)

Mrs. GREEN APPLE「青と夏」は、
2018年夏に公開されたキラキラ映画『青夏 きみに恋した30日』の
主題歌として書き下ろされた楽曲だとか。知らんかった。

流行りの音楽を追いかけない昭和のオッサンでも、
Mrs. GREEN APPLEの名前は、最近ちょこちょこ聞きます。
ただ楽曲については、あの“髯男”っぽいやつ?くらいの認識で
んなことを口にすればファンに叩かれてしまいそう。

【人気投票 1~223位】邦楽の夏うた・夏曲ランキング!
夏に聴きたいおすすめのサマーソングは?
2023年の夏に実施されたインターネットの人気投票では、
数ある“夏うた”のなかで、「青と夏」が堂々の第1位でした。
(※2023年8月24日現在)

なぜ、「青と夏」は、こんなに人気があるのか。

映画の方は、そんなに大ヒットしたようでもないので
やはり、楽曲のよさが多くの人の胸に届いたのでしょうね。

夏らしいアップテンポのバンドサウンドで、
歌詞の内容は、映画の内容に沿った青春応援ソングです。

大人になってもきっと 宝物は褪せないよ
 大丈夫だから 今はさ に飛び込んで居よう
(「青と夏」Mrs. GREEN APPLE  2018)

「青に飛び込もう」とは、青い海にダイブするように
思いっきり青い季節に飛び込め、というエールでしょうか。

夏が始まった 君はどうだ
 素直になれる勇気はあるか

私みたいなスレた大人になってしまえば、
ストレートな“青い”歌詞をハズかしく感じたり、
その素直さが眩しく、うらやましくも思えます。

この「青と夏」で面白いのは、映画の主題歌でありながら
あえて「映画じゃない」と、くり返し歌っている点です。

まだまだ終われないこの夏は
 映画じゃない 君らの番だ
 映画じゃない 僕らの
(「青と夏」Mrs. GREEN APPLE  2018)

NHKの人気TV番組「ブラタモリ」の主題歌で、
ハローハロー お元気? 今夜なにしてるの?
 TVなんか見てないで どこかへ一緒に行こう」(「女神」2015)

と、井上陽水が誘いかけているのと同じ手法ですね。

夏休みを舞台に、初々しい青春の恋を描いた名曲は
たくさんありますが、YUIの「Summer Song」もその一つ。

太陽が味方する 日に焼けた君が手をふるから
 期待してんだ 約束の季節に飛び込む 人魚みたいに
(「Summer Song」YUI 2008)

「青と夏」よりも10年前の曲ですが、
やっぱり、「約束の季節」(=夏)に飛び込んでます。

「青と夏」では、「に飛び込んで居よう」という
レトリックが使われていましたが、
「Summer Song」にも印象的な“青”の表現があります。

ヘコむ毎日 取り戻す日々 君に会って 笑いあって
 “真っ赤なブルーだ” 
(「Summer Song」YUI 2008)

「真っ赤なブルー」って、どんな色でしょうか。
え? と引っかかって、おもわず想像してしまう。
断言してるからには、そこに何か意図があるはず…。

昭和の歌姫、美空ひばりのヒット曲にこんなのがあります。

真赤に燃えた 太陽だから 真夏の海は 恋の季節なの
(「真赤な太陽」美空ひばり 1967)

「Summer Song」の“真っ赤”は、太陽だけではありません。
ギラギラの夏と海、なにより青春の “熱さ”を表現するのに
真っ赤なブルーだ」というパンチラインが効いています。
言い切る強さが、主人公の思いの強さとも重なります。

曲そのものは、決して暑苦しくはありません。
YUIの軽やかな歌声と爽やかなアコギサウンドを
甘酸っぱい青春ドラマ風の動画で聴かされてしまうと
脳の視床下部がくすぐられて、たまりません。

大人のクリエーターたちが寄ってたかって、
理想的な青春時代を描いてそそのかすから、
みんな夏に飛び込んでしまいたくなるわけですね。笑

22歳が選んだ「夏うた」 (その2)

6人が選んでくれた“夏の歌” 26曲(私も含めて31曲)のうち、
1人が1位に、もう1人が2位に選んだのが、aiko「花火」でした。
ポイント制なら、今回堂々のトップ賞です。パチパチパチ。

aikoの「花火」がリリースされたのは1999 (平成11)年なので、
2001-02年生まれの22歳にとっては、生まれる前の曲です。

「花火」は、「カブトムシ」と並ぶaikoの代表曲の一つ。
毎夏TVやラジオ番組が企画する「夏の歌」ランキングでは
必ず上位に入るほど夏の定番曲になっているので、
後の世代の若者が耳にする機会も多いのかも知れません。

さて。いったいこの曲の魅力は、どこにあるのか?
もいちど、じっくり聴いてみましょう。

最も印象に残るフレーズは、やはりこの部分でしょうか。

「夏の星座にぶらさがって上から花火を見下ろして
 こんなに好きなんです 仕方ないんです」
(「花火」aiko 1999)

初めて聴いたとき、花火を“見下ろす”というアイデアに驚きました。

当時「花火をどこから見るか問題」というのがあって、
もともとは1993年に岩井俊二監督によって提起されたものです。
最初はテレビドラマ作品として作られ、1995年に映画化された
『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』です。

この岩井監督の作品を原作とする同名のアニメ映画が
2017年に公開されましたが、その主題歌となったのが
DAOKO×米津玄師による、あの「打上花火」です。

さて、話をもどすと、
1990年代の「花火をどこから見るか問題」に対して
Aikoが放った「上から花火を見下ろして」というぶっ飛んだ歌詞に、
日本中のクリエーターや若者が衝撃を受けたものです。

すいません。誇大表現でした。
もう少し、ていねいに当時の印象をたどってみます。

夏の星座にぶらさがって上から花火を見下ろして
 こんなに好きなんです 仕方ないんです
(「花火」aiko 1999)

夏の星座とは、いったい何座だろう。
“夏の大三角形”を構成する白鳥座、琴座、わし座あたりか。
南の空に輝くS字のカーブ、さそり座かもしれない。

いや、そこまで考えて歌詞を書くだろうか、と我に返り、
なんだか少女マンガのヒロインの妄想シーンか、
アニメのエンディング曲のようだなと思い直しました。

歌詞の中には「三角の目をした羽ある天使」や
三角の耳した羽ある天使」が登場してきて
恋のアドバイスをしてくれちゃったりもします。

ファンタジー要素ましましの世界なのかと思いきや、
そんな天使のアドバイスが妙に人間くさくてリアルなのです。

疲れてるんならやめれば?」とか、
一度や二度は転んでみれば」とか、
なんか経験豊富なオバちゃんぽいのが微笑ましい。

どうも、恋をきっぱりと忘れることはできなさそうだし、
かといって、恋につき進める状況でもなさそうだし…。

Aiko、どうする?

いつまでも夏の星座にぶらさがって、
夢ばかり見ていられないことは、
自分でもよくわかっているのではなかろーか。
きっと手も痛くなるだろうし。

曲の最後には「バイバイ」と歌ってるので、
この恋にサヨナラするしかなかったのでしょう…。

ただし、歌詞にある「花火は消えない 涙も枯れない」とは、
花火(=恋)の思い出は、けっして消さないという決意でしょうね。
そしてまた、恋にサヨナラした悲しみも決して消えずに
思い出すたびに涙するだろうという予感なのかも知れません。

くーっ、せつない。

「花火」はキレイだけど、一瞬で消えるはかなさが、
せつない夏の恋や青春の象徴として好まれるのでしょうか。
春の「さくらソング」と、夏の「花火ソング」は、
Jポップの風物詩となっています。

今回選ばれた他の曲から、花火の歌詞を上げておきます。

決して捕まえることのできない
 花火のような光だとしたって
 もう一回 もう一回 もう一回 もう一回
 僕はこの手を伸ばしたい
(「HANABI」Mr.Children 2008)

もうすぐ花火が上がるね
 君の横顔を今焼き付けるように じっと見つめる
(「わたがし」back number 2012)

パッと光って咲いた 花火を見ていた
 きっとまだ 終わらない夏が
 曖昧な心を 解かして繋いだ
 この夜が 続いて欲しかった
(「打上花火」DAOKO×米津玄師 2017)

どーんと派手な打ち上げ花火も夏らしいですが、
二人だけで地味に楽しむ花火もなかなかオツなものです。

この細い細い うら道を抜けて
 誰もいない大きな夜の海見ながら
 線香花火に二人で ゆっくりゆっくり火をつける
(「夏色」ゆず 1998)

こんな歌詞のようなシーンに、今でも多くの若者が
あこがれていることでしょうし、多くの大人が
遠い日の花火を思い出していることでしょう。

結論。やっぱ、夏は若者が主役の季節ですね。

22歳が選んだ「夏うた」 (その1)

ホント今年のあつは夏いよね。などと、
化石化した昭和ギャグとともに久々の更新です。
これで少しは寒くなったかな。ならないか。

残暑お見舞い申し上げます。

久しぶりと言えば、先日、元塾生の同窓会をやりまして、
その席で、お気に入りの“夏うた”ベスト5を選んでもらい、
みんなでイチオシの曲を聴いて盛り上がりました。

楽曲のYouTube動画をTVモニターで流し、
歌詞をネットで探してプリントアウトして配りました。
(やっぱり歌詞は大事!)

2001-02年生まれの6名が選んだ“夏うた”は、以下の通りです。
(曲順はリリースの古い順、☆は各自が1位に選んだ曲です)

<22歳が選んだ「夏うた」全26曲>

・「シーズン・イン・ザ・サン」 Tube (1986)
・「夏色」 ゆず (1998)
☆「花火」 aiko (1999)
☆「ミュージック・アワー」 ポルノグラフィティ (2000.7)
・「ボーイフレンド」 aiko (2000.9)
☆「睡蓮花」 湘南乃風 (2007)
☆「Summer Song」 YUI (2008.7)
☆「HANABI」 Mr. Children (2008.9)
・「My SunShine」 ROCK’A’TRENCH (2009)
・「GO GOサマー!」 KARA (2011)
・「わたがし」 back number (2012)
・「太陽と向日葵」 Flowe r(2013)
・「君と夏フェス」 SHISHAMO (2014)
・「Summer Queen」 平井大 (2015.5)
・「Slow & Easy」 平井大 (2015.5)
☆「八月の夜」 SILENT SIREN (2015.8)
・「長く短い祭」 椎名林檎 (2015.8)
・「君がくれた夏」 家入レオ (2015.8)
・「ともに」 WANIMA (2016)
・「打上花火」 DAOKO×米津玄師 (2017)
・「青と夏」 Mrs. GREEN APPLE (2018)
・「SUNSET feat. IO, Yo-Sea」 Gottz (2021)
・「Attention」 New Jeans (2022.7)
・「GOD LOVES YOU」 SALU (2022.11)
・「青梅」 クリープハイプ (2023.5)
・「サマータイムシンデレラ」 緑黄色社会 (2023.8)

6人が5曲ずつ選んだうち、ダブったのは次の4曲だけでした。

・「花火」 aiko (1999)
・「わたがし」 back number (2012)
・「君と夏フェス」 SHISHAMO (2014)
・「青と夏」 Mrs. GREEN APPLE (2018)

ちなみに、昭和生まれ(59歳)の私が選んだのは、次の5曲。

☆「結詞」 井上陽水 (1976)
・「サマージャム’95」 スチャダラパー (1995)
・「水中メガネ」 Chappie(1999), 草野マサムネ(2015)
・「LOVELAND, ISLAND」 山下達郎(1982)
・「愛より青い海」 上々颱風 (1991)

案の定、世代の違いを痛感する結果となりました。

22歳が選んだ全26曲中、私が知っていたのは10曲程度。
せっかく教えてもらったので、その後ネットで歌詞を確認しながら
1曲ずつじっくり聴いてみました。

近ごろのポップスを聴いて昭和のオジサンが感じているのは、
言葉の数が多いわりに、何を言いたいのかよくわからない歌詞が多いこと。笑
とくにHIPHOP系のラップなんかは、ほぼほぼ聞き取れないし、
歌詞を確認しても、意味がよくわからなかったりする。

たとえば洋楽の場合は、英語の歌詞がわからなくても、
その曲を好きになることがあるので、そんな感じなのか。

そんな感じって、どんな感じよ?
歌詞よりもノリ、カッコいいサウンドがあれば
それでキマリじゃん!といった感じである。

んが、実際はそれだけでキメられない場合が多く、
好きな曲の魅力についていざ語ろうとすると、
歌詞、サウンド、パフォーマンス、MVの映像など
さまざまな要素がからみあっているので、
好きな曲であるほど、説明するのはむずかしい。

だからこそ、同じアーティストを好きになった人と、
あの曲がいい、この歌詞がいい…と語り合って共感できると、
メッチャうれしくなります。

好きになるきっかけは、いつだって(友人であれ、宣伝であれ)、
誰かが「これいいよ!」とすすめてくれる言葉です。

もちろん好きになる曲の趣味は人それぞれだし、
すすめられた曲を必ず好きになるとは限りませんが、
いくつになっても、いい曲との出会いは貴重なものです。

若い時期だからこそ、胸にひびく楽曲もあるし、
世代や性別をこえて愛される名曲もあります。
好きな曲に一人でひたって聴く楽しみもあるけど、
自分の味わった感動を、他者と共有できる喜びもあります。

というわけで、同窓会の余韻にひたりつつ、
22歳の若者たちが選んでくれた“夏うた”をネタに、
感じたことをつらつら書いてみました。
(つづくかも)

7月も,写真(part2)

7月のぶんかクラブのテーマは、
引き続き「写真」についてです。

前回は、梅佳代さんと赤瀬川原平さんの写真を紹介しましたが、
今回は、みうらじゅん&いとうせいこうの「ザ・スライドショー」を
取り上げたいと思います。

「ザ・スライドショー」は、サブカルチャーの帝王と呼ばれる
みうらじゅんが全国各地で撮影した写真をスライドにして上映し、
作家のいとうせいこうがツッコミを入れる爆笑トークイベントです。
1996(平成8)年から25年以上も続いています。

みうらじゅんは、高校入試後の特別講義でも
紹介したので、参加した人は覚えているかも。

それから「写真」の世界は奥が深いので、
今回は笑える写真だけでなく、
それ以外の芸術や報道写真のネタなんかも
取り上げてみようかと考えています。

では、今月も乞うご期待!
日時:7月9日(土)
午後6時30分~8時30分

6月は、写真!

6月の「ぶんかクラブ」のテーマは、
「写真で遊ぶ」です。

美しい写真。
ショッキングな写真。
笑える写真。
アート風な写真。
ポートレート写真。
不思議な写真。
想い出の写真。
ファッション写真。
歴史的な写真。
味のある写真…

写真といっても、いろんなジャンルがありますが、
今回は、私の好きな写真家の梅佳代(うめ・かよ)さんと
作家の赤瀬川原平(あかせがわ・げんぺい)さんをとりあげて
ちょっと変わった写真の楽しみ方を紹介します。

梅佳代さんは、
2006年(25歳のとき)刊行した初の写真集が
異例の13万部を超えるベストセラーとなった人気写真家。
翌年には写真界の芥川賞とも言われる「木村伊兵衛賞」を
受賞しています。その写真もキャラもかなりユニーク。
路上でふざける小学生や、頭にバナナを乗せたじいちゃんなど
独特の視線で日常を切り取る、ユーモラスな作風が持ち味です。
(↓ 写真集『男子』より)

一方の赤瀬川さんは、
カメラマンではありません。
前衛芸術家・作家・イラストレーターなど
多彩な肩書きをもって活躍していた人です。
残念ながら2014年に77歳で他界されていますが、
私が学生の頃から大好きなクリエーターの一人です。
今回は街を歩き回ってヘンな物件を発見するという
“路上観察”の写真を紹介します。
(↓ 「愛の狛犬(こまいぬ)」)

前回に引き続き、今回もきっと笑えると思いますよ。

では、乞うご期待!
日時:6月11日(土)
午後6時30分~8時30分

5月はコメディ!

「ぶんかクラブ」5月のテーマは、コメディです。

YouTubeやテレビ、映画など、世の中には「笑える」コンテンツがあふれていますが、何をおもしろいと感じるか、笑いのセンスは人によってずいぶん違っています。

コメディは、たんなる気晴らしとか、息ぬきとして消費されがちで、
なかには「お笑い」なんて、低俗で、不真面目で、くだらないと
そう思っているマジメな人もいるかもしれません。(内容次第?)

ただ「笑い」を、文化のなかの一つの現象として考えてみると、
それぞれの国や文化、あるいは時代によって実に多様で、
(時代や文化の違いを超えて笑える作品もたしかにあります)
どんなことをおかしいと感じて、笑ってしまうのか…
自分はどのくらい「笑い」を理解できるのだろうか…、
そんな疑問や好奇心がわいてきませんか。

となれば、いろんなコメディを観るに越したことはない、というわけで
今回は、約50年前のTV番組『空飛ぶモンティ・パイソン』を紹介します。
これはイギリスの公共放送BBCで放送されていた番組で、
“モンティ・パイソン”とは6人組のコメディ・グループの名前です。

たとえば、手もとにある資料から、彼らの評価を引用してみると…

◎「イギリスのコメディ・チーム、“モンティ・パイソン”は、英語圏を中心とした世界では、音楽におけるビートルズに並んで歴史にその名を刻む“世界を変えたポップ・カルチャーの”スーパー・グループである。」

◎「彼らは、スケッチ(※注:日本でいうコント)の中で多くのタブーを確信犯的に木っ端微塵(こっぱみじん)にした。女王陛下、貴族、政治家、財界人、芸術家、神様、牧師、知識人、偉人、紳士・淑女などの人物。 絵画、彫刻、音楽、建築、詩・小説などの芸術作品。従来は無条件に敬うべきであったそれらをTVという影響力の強いマス・メディアにおいて徹底的に茶化したのだ。」

◎「テレビというシステムにとどまらず、同時代の文化までをも揺るがせた」…「当時のモンティ・パイソンが残した笑いは、コメディの世界においていまだにそびえたつように君臨し、その追随を許さない。」

◎「モンティ・パイソンを観て面白いと思うかどうかは、踏み絵みたいなもの。モンティ・パイソンを観て声を出して笑えない、「面白いなあ」と思わない人は、お笑いの世界に来てほしくない。テストです。」

どう? そこまで言われると、ちょっと観てみたくない?
個人的には、いまの高校生にパイソンズの笑いが
どのくらい通じるのかも、興味があるところです。

予定時間は2時間なので、モンティ・パイソンだけでなく、
日本の過去のTV番組のコントも振り返りたいと思ってます。

では、乞うご期待!
日時:5月14日(土)午後4時~6時

「YELL」 いきものがかり

いきものがかり「YELL」は、
2009年NHK全国学校音楽コンクール
中学生の部の課題曲でした。

曲を書いたリーダーの水野良樹さんは、
15歳のころの深く思い悩んでいた自分を
思い返して、楽曲制作に取り組んだとか。

なので、いまも同じように悩む10代や
かつてそんな時期があったオトナたちの
心に刺さる曲になっているのかも。

一般的にいえば「YELL」は
思春期の若者にエールを送る歌です。

“わたし”はどこに在るのか?
“ほんとうの自分”とは何なのか?
“なぜ”答えを探そうとするのか?

こうした“問い”は、とても哲学的というか、
人間が抱える根源的な問いかけで
オトナにとっても簡単に答えが出るような
ものではありません。

この「YELL」の歌詞にも
《“ほんとうの自分”を 誰かの台詞で
 つくろうことに 逃れて 迷って》
とあるように、多くの人はテキトーに
自分をごまかして、やりすごしています。笑

そんな問いを抱えてしまった“私”の
内面のドラマがどう描かれているのか、
歌詞のレトリックに注目してみます。

たとえば第一連では
《踏みしめた足跡を 何度も見つめ返す》
そんな私が、サビではこう変わります。
《飛び立つよ 独りで 未来の空へ》

ただうつむき、過去を見つめていた私が
独りで歩き、駆け出し、飛び立とうとする
実にドラマティックな展開ですね。

《優しいひだまりに 肩寄せる日々》
という学校生活、教室のイメージと
《翼はあるのに 飛べずにいるんだ》
という比喩を重ねると、巣箱のなかに
群れているヒナ鳥が思い浮かびます。

《かじかんだ指先で 夢を描いた》
といった歌詞も、自由に動けない弱さ、
ただ夢みるだけの思春期の未熟さを
うまく表現しています。

価値の対比や逆説的な言い回しも
フックになっていて「おっ!」と思います。
たとえば、

《ありのままの弱さと向き合う強さを》

強がっている人が強いわけでなく、
自分の弱さや臆病さと向き合えることが
強さなのだという逆説。す、するどい。

また、一般的に《独り》はよくないものだと
ネガティブに受け取られがちですが、
この歌では《独りで 未来の空へ》
堂々と肯定的に呼びかけています。

そして最も印象的な逆説は、ここ。

《サヨナラは悲しい言葉じゃない
 それぞれの夢へと僕らを繋ぐ YELL》

古い歌謡曲が好きな人間ならば
薬師丸ひろ子「セーラー服と機関銃」
(詞:来生えつこ、曲:来生たかお)を
なつかしく思い出すことでしょう。

《さよならは別れの言葉じゃなくて
 再び逢うまでの 遠い約束》
(「セーラー服と機関銃」1981)

楽曲のなかでいちばん盛り上がるのは、
やはりメインボーカルとコーラスとの
掛け合いのところですね。
カッコよくて、たまりません。

《永遠など無いと (気づいたときから)
 笑い合ったあの日も (唄い合ったあの日も)
 強く (深く)  胸に (刻まれていく)
 だからこそあなたは (だからこそ僕らは)
 他の誰でもない  (誰にも負けない)
 声を (挙げて) “わたし”を生きていくよと
 約束したんだ ひとり (ひとり)
 ひとつ(ひとつ道を選んだ》

こうして文字にして抜き書きすると、
もう一度、聴いて確かめたくなります。

さて。
ネット上には、全国の中学生たちの
美しい合唱の動画もアップされています。
歌っているその姿を見ながら、
人前で歌うのがハズかしくなるのも
思春期の症状の一つであったことを
思い出しました。

「青空」ケツメイシ

今回は、ケツメイシを3曲。

まず、すすめてもらった「青空」から。
ミュージックビデオ(MV)が面白い。
ストーリーを追いながら、どゆこと?
意味がようわからん。けど、おかしい。

おかげで歌詞が入ってこないぢゃないか。

歌詞を読みながら、聴き直しましたよ。
気に入ったリリックは、こんなとこ。

《見上げれば悩みも ちっぽけだって
 背中押してくれる「いっとけば?」って
 恐れ、葛藤、不安に迷うな
 見上げればホラ そこに青空》

とか

《広い空の下 みんな迷子
 でも信じて背中押す風 愛を
 あの重たい雲もいつか去ってく
 青空が笑顔でいつも待ってる》

とか。いいですね。

純粋で透明で静かで幸福な空の青さ。
そんな「青い空」へと誘いかける
ほかの詩歌も読み返したくなります。

たとえば、石川啄木のこんな短歌とか。

《不来方のお城の草に寝ころびて
 空に吸はれし
 十五の心》

※不来方(こずかた):現在の盛岡市。
石川君は、中学時代に授業をサボって
城址に寝に行ってたそうです。

あるいは、RCのこんな歌。

《彼女 教科書 ひろげてるとき
 ホットなナンバー 空にとけてった》
(「トランジスタラジオ」RCサクセション)

こちらは授業をサボって校舎の屋上で
ラジオの音楽を聴いている高校生です。

勉強に、仕事に、生活に追われて
空を見上げる時間がなくなってくると
こういう空の青さが心にしみます。

ケツメイシの2曲目は
「ライフ イズ ビューティフル」
こちらは、人生をテーマにした感動的なMV。
といっても、まったくセリフがないので
映像から物語を想像するだけですけど。

出産のために里帰りした妊婦さんが
同窓会の席で受け取ったのは
自分が小学生(10歳)のときに書いて
忘れていた「30歳の私へ」という手紙。

そのカードに書かれていた言葉は
お母さんみたいなお母さんになりたいです。

くーっ。

この曲もMVのストーリーに見入ってしまい、
歌詞がまったく入ってこなかったので
後から歌詞を確認しました。

《「泣き」「笑い」抱え今君が生きてる
 それだけの事で誰か幸せに満ちてく
 だからこそ言うんだよ
 「生きるって素晴らしい」》

《苦労 苦悩 越えた自分に
 おはようハローもう辛くないよ
 泣いたり悩んだりするから人生は美しい》

歌詞がスッと耳に入ってこないのは、
けっしてMVのせいだけではありません。

ラップのリリックは、ライムを重視したフロウで
独特のバイブスをまとっているので
(って、何言ってるかわかりませんね)

もとい。
ラップの詞は、韻を重視した歌い回しで
独特の雰囲気をまとっているので
私みたいなオヤジには聴き取りづらいのです。

でも、歌詞を読むとメッセージはわかりやすい。
単純な内容をいかにカッコよく歌うか、
それがラップだ、というと単純化しすぎか。

ケツメイシの代表ソング「さくら」のMVも
ショートムービーのような見事な完成度で
多くのファンに絶賛されています。
これはさすがにわたしも知っていました。

《さくら舞い散る中に忘れた記憶と
 君の声が戻ってくる
 吹き止まない春の風 あの頃のままで

 君が風に舞う髪かき分けた時の
 淡い香り戻ってくる
 二人約束した あの頃のままで》

TVドラマでも映画でも、CMでも、
あるシーンの感動や雰囲気づくりのために
音楽が効果的に使われることがあります。
主題歌や劇伴、BGMなんかがそうですね。

ストーリー性のあるMV作品の場合は、
その映像や物語が楽曲のイメージをつくり、
楽曲がドラマの感動を盛り上げてくれます。

すごいのは、その相乗効果によって
(歌詞がちゃんと聴き取れなくても)
そのMVに感動できてしまうことです。

楽曲も、MVの出来もすばらしいと、
自分が映像で感動しているのか、
音楽に感動しているのか、
詞(リリック)に感動しているのか、
混然となってよくわからなくなりますが
それは、幸福な体験でもあります。

「ありがとう」ベリーグッドマン

「ありがとう」というタイトルの歌は
いったいどれくらいあるんだろう?
検索してみると、660件もありました。
https://www.clubdam.com/karaokesearch/

なかには「夜霧よ今夜も有難う」なんて曲も
混じっていましたけど。それでもすごい数。

ベリーグッドマン「ありがとう」には
「~旅立ちの声~」というのをくっつけて
正しいタイトルのようです。
森山直太朗の「さくら」の後ろに(独唱)と、
タグがついているようなものですね。

ちなみに、歌詞の一部に「ありがとう」を
含む曲だと7087件もありました。
恐るべし!「ありがとうソング」

前回取り上げたYOASOBIの「ハルカ」でも
《こみ上げてくる 想いはただ ありがとう》
マグカップの気持ちが歌われていましたね。

「ありがとう」の語源は【有難し】。
「めったにない、めずらしいこと」ですが、
「ありがとう」の気持ちを歌っている曲は、
めずらしくない、ありふれたもののようです。

そんな数多くの「ありがとうソング」は、
いったい誰に、何を感謝しているのか?
確認してみましょう。

まずはベリグの「ありがとう」から。

《ありがとう ありがとう
 もう会えなくなっても
 あなたの声を 抱きしめて旅立とう》

いったい「あなた」って誰?

《身近にあった愛と期待が
 今の僕を形成し育てた》
とあるので、親または先生のことかな。

《僕ら出会えたことに
 これからも感謝したい》
こっちは、友達でしょうか。

「ありがとう~旅立ちの声~」の
レコード会社の紹介文にはこうあります。

卒業・結婚・新社会人など
 新生活に向けて訪れる旅立ちの時期に、
 かけがえのない大切な人に向けて
 誰もが心に持っている
「ありがとう=旅立ちの声」を伝える
 共感度120%のメッセージソング!

「かけがえのない大切な人」と、
あえて対象をぼやかしておくことで
誰もが自分の「大切な人」を思い浮かべて
共感しやすい歌詞になっています。

たとえば、SMAP「ありがとう」の歌詞には、
「大切な人」だけでなく、「みんな」「仲間」「母」
「君」「愛する人」などがつぎつぎ登場します。
これだけ並ぶと、感謝する人は誰かいますよね。

聴き手は、大切な人を思い浮かべるだけでなく、
SMAPがファンの私にも感謝していると想像して
うっとりすることができる歌詞になっています。

ファンへの感謝を歌っている(?)といえば
井上陽水奥田民生「ありがとう」
才能あふれる二人のユニットですから
ベタな「ありがとうソング」とは一味違います。

《近い人 遠い人
 やさしい人 つめたい人
 好きな人 イヤな人
 みんな みんな ありがとう  Yeah!》

イヤな人」を混ぜているとこが笑えます。
マジメになりがちな「ありがとう」の負担を
ポップに軽くしてくれる「Yeah!」も最高。

「ありがとう」という言葉を使わずに
感謝の気持ちを巧みに表現した名曲に
ドリームズ・カム・トゥルー
「サンキュ.」があります。

《なにも聞かずに
 つきあってくれてサンキュ》

と、この2行でおわかりのように
(って、これだけじゃ無理か?)
「彼とサヨナラした女性」をなぐさめる
女同士の友情と気づかいが泣かせる曲。
サンキュの軽さが親密な関係を
うまく表現していますね。

ありがとうの黄金パターンは、
「出会えたことにありがとう」とか
「愛してくれてありがとう」といった
二人だけの甘いラブソングでしょうか。

たとえば、いきものがかり「ありがとう」
朝ドラの主題歌になった曲ですが、
原作をそのまま曲にしているわけではないので、
ドラマを知らなくても十分感動できるはず。

歌の出だしから、
《“ありがとう”って伝えたくて
 あなたを見つめるけど》
と、言葉にできない“照れ” がいいですね。
(とはいえ、しっかり手をつないでますが)

で、なんだかんだあって、曲の最後で
《“ありがとう”って言葉を
いま あなたに伝えるから》

というエンディングに、みごとにやられます。

最後に、今回取り上げた曲を
年代順に並べておきます。

◎「サンキュ.」DREAMS COME TRUE(1995)
◎「ありがとう」井上陽水奥田民生 (1997)
◎「ありがとう」SMAP(2006)
◎「ありがとう」いきものがかり(2010)
◎「ありがとう~旅立ちの声~」ベリーグッドマン(2016)

世の中にはいろんな「ありがとう」があって、
その一つひとつが特別で「有難い」というか、
一期一会のものなのかも知れませんね。

最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。

「ハルカ」YOASOBI

YOASOBIが 大好きと言い 父あせる
(サラリーマン川柳より)

2020年に「夜に駆ける」が大ヒットして
メディアでずいぶん騒がれていたので
さすがにYOASOBIの名前は知ってました。
いろんな小説を曲にしているということも。

ネット上には“メディアミックス”がどうとか、
ブレイクの裏側だとか、ビジネスの視点から
彼らの成功を取り上げる記事がいっぱいですが、
理屈の前に、まず感動が大事ですね。

「ハルカ」はYOASOBIの6作目のシングル。
放送作家の鈴木おさむが書いた小説
「月王子」を原作としているそうです。

私みたいに、先にMVを見てしまうと、
歌詞の内容がつかめないかも知れません。

《いつでも君と共に歩いてきたキセキ
 つらいことも うれしいことも
 分かち合えるそんな 日々よ》

って、まさかマグカップがそんなことを
考えているとは思いませんでした。

《こみ上げてくる想いはただ ありがとう
 いつまでも 幸せで
 いつまでも 愛してるよ》

こんなセリフも、MVに登場する女の子が
好きな人に向かって歌っていると思うはず。
マグカップふぜいが愛を語っていたとは!

で、ちゃんと原作を読んで曲を聴くと、
ぼんやりしていた歌詞のピントが合います。
いっそう感動が高まること、うけあいです。

お題:マグカップが主人公の物語
鈴木おさむ「月王子」
https://monogatary.com/episode/109217

原作は、中2の女の子に買われたマグカップが
彼女の半生(受験や恋、就職や結婚出産…)を見守り、
応援し続けるというストーリー。
といっても、10分以内で読める短編です。

「夜に駆ける」の原作も読んでみました。
こちらは2分以内で読めます。

お題:夏の夜、君と僕の焦燥。
星野舞夜「タナトスの誘惑」
https://monogatary.com/episode/33827

なるほど。そーゆーことだったのね。
「夜に駆ける」の歌詞とMVの意味が
今ごろになってやっとわかりました。遅ッ。

「物語」というコンテンツを共有すると、
そこから派生した音楽やイラスト、動画などの
2次創作の表現が理解しやすくなります。

くやしまぎれに言えば、曲を聴くときは、
(とくに知らないアーティストの場合は)
歌詞の意味を勝手に想像しながら
自由に解釈する楽しみもあるのだけど。

ただ、その場合もなんらかの物語は必要です。

世の中にはいろんな物語があふれていますが、
どうやら、感動というものは
自分の人生の物語と他者の物語とが交差し、
響きあうことで生まれてくるようです。

ハルカと月王子のように。