9月になりましたが、“夏うた”の残りの講義はあと2曲。
今回は、上々颱風(シャンシャンタイフーン)の「愛より青い海」と、
山下達郎の「LOVELAND, ISLAND(ラブランド、アイランド)」を
いっきに解説します。
どちらにも “愛”や“LOVE”という言葉が使われていますが、
“愛”といっても、現代人のややこしい恋愛模様や
個人的な恋愛ドラマを描くラブソングとはちょっと違って、
もっとスケールの大きな“愛”が歌われています。
まず、上々颱風の「愛より青い海」から聴いてみます。
沖縄やアジアの香りがする独特のサウンドと
女性ツインボーカルのハーモニーが魅力的な曲です。
「ただひとつの歌を 歌うために生まれた
ただひとつの愛を 歌うために生まれた」
(「愛より青い海」上々颱風 1991)
一つひとつの言葉の意味は単純ですが、くり返されると、
だんだん深くて広い意味に感じられてきます。
“ただひとつの歌”、“ただひとつの愛”とは何でしょうか。
たとえば、ミスチルの「HANABI」の歌詞では、
主人公が「世界のすべてが無意味だって思える」と感じ、
こう自分に問いかけていました。
「一体どんな理想を描いたらいい?
どんな希望を抱き進んだらいい?
答えようもないその問いかけは
日常に葬られてく」
(「HANABI」Mr. Children 2008)
そんな私たちの胸に浮かんでは消えてゆく問い、
現代人が抱える “何のために生きるのか” といった
難しい問いについての、とてもシンプルな答えを
この「愛より青い海」に聴くこともできます。
「ただひとつの歌を 歌うために生まれた
ただひとつの愛を 歌うために生まれた
ただひとつの夢を 歌うために生まれた
ただひとつの朝を 歌うために生まれた」
(「愛より青い海」上々颱風 1991)
そっか。私たちは「歌うために」生まれてきたのか…。
そういえば、国語で習った『古今和歌集』の序にも
「生きているすべてのものが歌をよむ」とありました。
「やまとうたは、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。
…(中略)…生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。」
(『古今和歌集』新編日本古典文学全集11)
でも、「ただひとつの歌」とはどんな歌でしょう。
あるいは、「ただひとつの愛」とは何でしょうか。
いちばん愛している人のことでしょうか。
たぶん、ここで歌われている「ただひとつの」とは、
ただひとりの“私個人”にとっての、という意味ではなくて、
“私たち”人間とって共通の「ただひとつ」だと思います。
「ただひとつの○○を 歌うために生まれた」と
舟の櫂をこぐように繰り返される歌を聴いていると、
私たちが共有できる「ただひとつの」ものがある…
そんな想いが浮かんで、心地よい一体感が生まれます。
さらに、私たちに共通する遠い起源へのまなざしで
「みんなおなじ」というイメージが強められています。
「流れゆく白い雲を 追いかけて追いかけて
人はみな青い海の 向こうからやって来た」
(「愛より青い海」上々颱風 1991)
私たちの祖先は海の向こうからやって来ましたし、
沖縄(琉球)の神話には、遠い海の彼方にある
“ニライカナイ”と呼ばれる理想郷が語られています。
そんな悠久の時間をイメージしながら聴くと、
この曲の味わいがいちだんと深いものになります。
では、次。
山下達郎の「LOVELAND, ISLAND」を聴いてみます。
「ラブランド、アイランド」というタイトルからして
“愛”にあふれた素敵な理想郷のような印象です。
いったいどんな“愛”が歌われているのでしょうか。
歌詞の内容をざっくり言うと、
夏の幻のように、どこからか現われた女性が、
砂漠の街をオアシスに変えて、消えてゆく。
そんなストーリーです。
「オアシスに変わる」というのは、その女性が
乾いた心をうるおしてくれたという比喩です。
遠い場所や異世界から“見知らぬもの”が到来して、
幸福(または厄災)をもたらすというストーリーは、
神話やSF、アニメなどの物語の“類型”として、
太古の昔から語られ、人々の想像力を刺激してきました。
この歌詞も、そんな物語の構造を踏襲しています。
ちなみに、日本語の“まつり(祭り)”の語源は、
他界から来訪する神を“まつ(待つ)” に由来しています。
夏フェスに降臨するのは、私たちに元気をくれる
特別な力のあるミュージシャン(=神)ということです。
この楽曲「LOVELAND, ISLAND」では、
まるで伝説が生まれる現場に立ち会ったかのように、
歌詞の最後で主人公(男)の感慨が語られます。
「Oh Loveland
ふいに現れ消えた
あの人 きっと夏の女神さ
光の愛はここにもあると
Oh Loveland
教えに来たんだ」
(「LOVELAND, ISLAND」山下達郎 1982)
いったい「光の愛」とは何でしょうか。
よくわかりません。むしろ、わからないからこそ
なんだか素晴らしいものに思えてきます。
“愛”も、“光”も、世界のすべてをつつむ便利な言葉で、
目に見えないものまで、あらわしてくれます。
この曲では、サンバ調のごきげんなリズムにのって
軽やかなステップを刻む女神が見えるようです。
この曲が使われていたビールのCMでは実際に、
ダンサーの華麗なステップが披露されていました。
では、“光”つながりで、おまけの一曲。
同じ山下達郎の「SPARKLE(スパークル)」です。
(“sparkle”とは、“輝き・きらめき”といった意味)
「LOVELAND, ISLAND」と同じアルバム『FOR YOU』の
1曲目に収録された、まさに夏の到来を告げるような曲です。
「七つの海から 集まってくる 女神たちのドレスに 触れた途端に
拡がる世界は 不思議な輝きを 放ちながら 心へと忍び込む」
(「SPARKLE」 詞:吉田美奈子、曲:山下達郎 1982)
この「不思議な輝き」が、タイトルの由来だと思われますが、
コーラスは、こんな歌詞になっています。
「Wonder in your world.
Sparkle in my heart.」
(和訳:
君の世界の不思議、
僕の心のなかの輝き)
「女神たちのドレス」とは、海風の比喩でしょうか。
海から吹いてくる風と、きらめく夏の光。
そんな「不思議な輝き」がもたらす解放感…。
なんて解釈では、この曲のよさはまったく伝わりません。
この楽曲の魅力は、サウンドの圧倒的なカッコよさです。
むしろ歌詞には、明確な意味や論理性をもたせず、
サウンドの効果を増幅させ、イメージを拡げるような
そんな感覚的な言葉がつぎつぎに繰り出されます。
山下達郎が刻むギターの軽快なカッティング、
ドラムとベースのリズム隊が生み出すグルーブ感、
低音から高温へと順に重ねられるブラスの響き、
などといくら説明しても、百言は一聴に如かず。
では、2023年に公開された新しいMVをどうぞ。
※ダンサーの動きについ注目してしまいますが、
できるだけサウンドの重なりに注意しながら、
楽曲そのもののカッコよさを体感してください。
この際、歌詞はどーでもいいです。(笑)