「YELL」 いきものがかり

いきものがかり「YELL」は、
2009年NHK全国学校音楽コンクール
中学生の部の課題曲でした。

曲を書いたリーダーの水野良樹さんは、
15歳のころの深く思い悩んでいた自分を
思い返して、楽曲制作に取り組んだとか。

なので、いまも同じように悩む10代や
かつてそんな時期があったオトナたちの
心に刺さる曲になっているのかも。

一般的にいえば「YELL」は
思春期の若者にエールを送る歌です。

“わたし”はどこに在るのか?
“ほんとうの自分”とは何なのか?
“なぜ”答えを探そうとするのか?

こうした“問い”は、とても哲学的というか、
人間が抱える根源的な問いかけで
オトナにとっても簡単に答えが出るような
ものではありません。

この「YELL」の歌詞にも
《“ほんとうの自分”を 誰かの台詞で
 つくろうことに 逃れて 迷って》
とあるように、多くの人はテキトーに
自分をごまかして、やりすごしています。笑

そんな問いを抱えてしまった“私”の
内面のドラマがどう描かれているのか、
歌詞のレトリックに注目してみます。

たとえば第一連では
《踏みしめた足跡を 何度も見つめ返す》
そんな私が、サビではこう変わります。
《飛び立つよ 独りで 未来の空へ》

ただうつむき、過去を見つめていた私が
独りで歩き、駆け出し、飛び立とうとする
実にドラマティックな展開ですね。

《優しいひだまりに 肩寄せる日々》
という学校生活、教室のイメージと
《翼はあるのに 飛べずにいるんだ》
という比喩を重ねると、巣箱のなかに
群れているヒナ鳥が思い浮かびます。

《かじかんだ指先で 夢を描いた》
といった歌詞も、自由に動けない弱さ、
ただ夢みるだけの思春期の未熟さを
うまく表現しています。

価値の対比や逆説的な言い回しも
フックになっていて「おっ!」と思います。
たとえば、

《ありのままの弱さと向き合う強さを》

強がっている人が強いわけでなく、
自分の弱さや臆病さと向き合えることが
強さなのだという逆説。す、するどい。

また、一般的に《独り》はよくないものだと
ネガティブに受け取られがちですが、
この歌では《独りで 未来の空へ》
堂々と肯定的に呼びかけています。

そして最も印象的な逆説は、ここ。

《サヨナラは悲しい言葉じゃない
 それぞれの夢へと僕らを繋ぐ YELL》

古い歌謡曲が好きな人間ならば
薬師丸ひろ子「セーラー服と機関銃」
(詞:来生えつこ、曲:来生たかお)を
なつかしく思い出すことでしょう。

《さよならは別れの言葉じゃなくて
 再び逢うまでの 遠い約束》
(「セーラー服と機関銃」1981)

楽曲のなかでいちばん盛り上がるのは、
やはりメインボーカルとコーラスとの
掛け合いのところですね。
カッコよくて、たまりません。

《永遠など無いと (気づいたときから)
 笑い合ったあの日も (唄い合ったあの日も)
 強く (深く)  胸に (刻まれていく)
 だからこそあなたは (だからこそ僕らは)
 他の誰でもない  (誰にも負けない)
 声を (挙げて) “わたし”を生きていくよと
 約束したんだ ひとり (ひとり)
 ひとつ(ひとつ道を選んだ》

こうして文字にして抜き書きすると、
もう一度、聴いて確かめたくなります。

さて。
ネット上には、全国の中学生たちの
美しい合唱の動画もアップされています。
歌っているその姿を見ながら、
人前で歌うのがハズかしくなるのも
思春期の症状の一つであったことを
思い出しました。

「青空」ケツメイシ

今回は、ケツメイシを3曲。

まず、すすめてもらった「青空」から。
ミュージックビデオ(MV)が面白い。
ストーリーを追いながら、どゆこと?
意味がようわからん。けど、おかしい。

おかげで歌詞が入ってこないぢゃないか。

歌詞を読みながら、聴き直しましたよ。
気に入ったリリックは、こんなとこ。

《見上げれば悩みも ちっぽけだって
 背中押してくれる「いっとけば?」って
 恐れ、葛藤、不安に迷うな
 見上げればホラ そこに青空》

とか

《広い空の下 みんな迷子
 でも信じて背中押す風 愛を
 あの重たい雲もいつか去ってく
 青空が笑顔でいつも待ってる》

とか。いいですね。

純粋で透明で静かで幸福な空の青さ。
そんな「青い空」へと誘いかける
ほかの詩歌も読み返したくなります。

たとえば、石川啄木のこんな短歌とか。

《不来方のお城の草に寝ころびて
 空に吸はれし
 十五の心》

※不来方(こずかた):現在の盛岡市。
石川君は、中学時代に授業をサボって
城址に寝に行ってたそうです。

あるいは、RCのこんな歌。

《彼女 教科書 ひろげてるとき
 ホットなナンバー 空にとけてった》
(「トランジスタラジオ」RCサクセション)

こちらは授業をサボって校舎の屋上で
ラジオの音楽を聴いている高校生です。

勉強に、仕事に、生活に追われて
空を見上げる時間がなくなってくると
こういう空の青さが心にしみます。

ケツメイシの2曲目は
「ライフ イズ ビューティフル」
こちらは、人生をテーマにした感動的なMV。
といっても、まったくセリフがないので
映像から物語を想像するだけですけど。

出産のために里帰りした妊婦さんが
同窓会の席で受け取ったのは
自分が小学生(10歳)のときに書いて
忘れていた「30歳の私へ」という手紙。

そのカードに書かれていた言葉は
お母さんみたいなお母さんになりたいです。

くーっ。

この曲もMVのストーリーに見入ってしまい、
歌詞がまったく入ってこなかったので
後から歌詞を確認しました。

《「泣き」「笑い」抱え今君が生きてる
 それだけの事で誰か幸せに満ちてく
 だからこそ言うんだよ
 「生きるって素晴らしい」》

《苦労 苦悩 越えた自分に
 おはようハローもう辛くないよ
 泣いたり悩んだりするから人生は美しい》

歌詞がスッと耳に入ってこないのは、
けっしてMVのせいだけではありません。

ラップのリリックは、ライムを重視したフロウで
独特のバイブスをまとっているので
(って、何言ってるかわかりませんね)

もとい。
ラップの詞は、韻を重視した歌い回しで
独特の雰囲気をまとっているので
私みたいなオヤジには聴き取りづらいのです。

でも、歌詞を読むとメッセージはわかりやすい。
単純な内容をいかにカッコよく歌うか、
それがラップだ、というと単純化しすぎか。

ケツメイシの代表ソング「さくら」のMVも
ショートムービーのような見事な完成度で
多くのファンに絶賛されています。
これはさすがにわたしも知っていました。

《さくら舞い散る中に忘れた記憶と
 君の声が戻ってくる
 吹き止まない春の風 あの頃のままで

 君が風に舞う髪かき分けた時の
 淡い香り戻ってくる
 二人約束した あの頃のままで》

TVドラマでも映画でも、CMでも、
あるシーンの感動や雰囲気づくりのために
音楽が効果的に使われることがあります。
主題歌や劇伴、BGMなんかがそうですね。

ストーリー性のあるMV作品の場合は、
その映像や物語が楽曲のイメージをつくり、
楽曲がドラマの感動を盛り上げてくれます。

すごいのは、その相乗効果によって
(歌詞がちゃんと聴き取れなくても)
そのMVに感動できてしまうことです。

楽曲も、MVの出来もすばらしいと、
自分が映像で感動しているのか、
音楽に感動しているのか、
詞(リリック)に感動しているのか、
混然となってよくわからなくなりますが
それは、幸福な体験でもあります。

「ありがとう」ベリーグッドマン

「ありがとう」というタイトルの歌は
いったいどれくらいあるんだろう?
検索してみると、660件もありました。
https://www.clubdam.com/karaokesearch/

なかには「夜霧よ今夜も有難う」なんて曲も
混じっていましたけど。それでもすごい数。

ベリーグッドマン「ありがとう」には
「~旅立ちの声~」というのをくっつけて
正しいタイトルのようです。
森山直太朗の「さくら」の後ろに(独唱)と、
タグがついているようなものですね。

ちなみに、歌詞の一部に「ありがとう」を
含む曲だと7087件もありました。
恐るべし!「ありがとうソング」

前回取り上げたYOASOBIの「ハルカ」でも
《こみ上げてくる 想いはただ ありがとう》
マグカップの気持ちが歌われていましたね。

「ありがとう」の語源は【有難し】。
「めったにない、めずらしいこと」ですが、
「ありがとう」の気持ちを歌っている曲は、
めずらしくない、ありふれたもののようです。

そんな数多くの「ありがとうソング」は、
いったい誰に、何を感謝しているのか?
確認してみましょう。

まずはベリグの「ありがとう」から。

《ありがとう ありがとう
 もう会えなくなっても
 あなたの声を 抱きしめて旅立とう》

いったい「あなた」って誰?

《身近にあった愛と期待が
 今の僕を形成し育てた》
とあるので、親または先生のことかな。

《僕ら出会えたことに
 これからも感謝したい》
こっちは、友達でしょうか。

「ありがとう~旅立ちの声~」の
レコード会社の紹介文にはこうあります。

卒業・結婚・新社会人など
 新生活に向けて訪れる旅立ちの時期に、
 かけがえのない大切な人に向けて
 誰もが心に持っている
「ありがとう=旅立ちの声」を伝える
 共感度120%のメッセージソング!

「かけがえのない大切な人」と、
あえて対象をぼやかしておくことで
誰もが自分の「大切な人」を思い浮かべて
共感しやすい歌詞になっています。

たとえば、SMAP「ありがとう」の歌詞には、
「大切な人」だけでなく、「みんな」「仲間」「母」
「君」「愛する人」などがつぎつぎ登場します。
これだけ並ぶと、感謝する人は誰かいますよね。

聴き手は、大切な人を思い浮かべるだけでなく、
SMAPがファンの私にも感謝していると想像して
うっとりすることができる歌詞になっています。

ファンへの感謝を歌っている(?)といえば
井上陽水奥田民生「ありがとう」
才能あふれる二人のユニットですから
ベタな「ありがとうソング」とは一味違います。

《近い人 遠い人
 やさしい人 つめたい人
 好きな人 イヤな人
 みんな みんな ありがとう  Yeah!》

イヤな人」を混ぜているとこが笑えます。
マジメになりがちな「ありがとう」の負担を
ポップに軽くしてくれる「Yeah!」も最高。

「ありがとう」という言葉を使わずに
感謝の気持ちを巧みに表現した名曲に
ドリームズ・カム・トゥルー
「サンキュ.」があります。

《なにも聞かずに
 つきあってくれてサンキュ》

と、この2行でおわかりのように
(って、これだけじゃ無理か?)
「彼とサヨナラした女性」をなぐさめる
女同士の友情と気づかいが泣かせる曲。
サンキュの軽さが親密な関係を
うまく表現していますね。

ありがとうの黄金パターンは、
「出会えたことにありがとう」とか
「愛してくれてありがとう」といった
二人だけの甘いラブソングでしょうか。

たとえば、いきものがかり「ありがとう」
朝ドラの主題歌になった曲ですが、
原作をそのまま曲にしているわけではないので、
ドラマを知らなくても十分感動できるはず。

歌の出だしから、
《“ありがとう”って伝えたくて
 あなたを見つめるけど》
と、言葉にできない“照れ” がいいですね。
(とはいえ、しっかり手をつないでますが)

で、なんだかんだあって、曲の最後で
《“ありがとう”って言葉を
いま あなたに伝えるから》

というエンディングに、みごとにやられます。

最後に、今回取り上げた曲を
年代順に並べておきます。

◎「サンキュ.」DREAMS COME TRUE(1995)
◎「ありがとう」井上陽水奥田民生 (1997)
◎「ありがとう」SMAP(2006)
◎「ありがとう」いきものがかり(2010)
◎「ありがとう~旅立ちの声~」ベリーグッドマン(2016)

世の中にはいろんな「ありがとう」があって、
その一つひとつが特別で「有難い」というか、
一期一会のものなのかも知れませんね。

最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。