「ハルカ」YOASOBI

YOASOBIが 大好きと言い 父あせる
(サラリーマン川柳より)

2020年に「夜に駆ける」が大ヒットして
メディアでずいぶん騒がれていたので
さすがにYOASOBIの名前は知ってました。
いろんな小説を曲にしているということも。

ネット上には“メディアミックス”がどうとか、
ブレイクの裏側だとか、ビジネスの視点から
彼らの成功を取り上げる記事がいっぱいですが、
理屈の前に、まず感動が大事ですね。

「ハルカ」はYOASOBIの6作目のシングル。
放送作家の鈴木おさむが書いた小説
「月王子」を原作としているそうです。

私みたいに、先にMVを見てしまうと、
歌詞の内容がつかめないかも知れません。

《いつでも君と共に歩いてきたキセキ
 つらいことも うれしいことも
 分かち合えるそんな 日々よ》

って、まさかマグカップがそんなことを
考えているとは思いませんでした。

《こみ上げてくる想いはただ ありがとう
 いつまでも 幸せで
 いつまでも 愛してるよ》

こんなセリフも、MVに登場する女の子が
好きな人に向かって歌っていると思うはず。
マグカップふぜいが愛を語っていたとは!

で、ちゃんと原作を読んで曲を聴くと、
ぼんやりしていた歌詞のピントが合います。
いっそう感動が高まること、うけあいです。

お題:マグカップが主人公の物語
鈴木おさむ「月王子」
https://monogatary.com/episode/109217

原作は、中2の女の子に買われたマグカップが
彼女の半生(受験や恋、就職や結婚出産…)を見守り、
応援し続けるというストーリー。
といっても、10分以内で読める短編です。

「夜に駆ける」の原作も読んでみました。
こちらは2分以内で読めます。

お題:夏の夜、君と僕の焦燥。
星野舞夜「タナトスの誘惑」
https://monogatary.com/episode/33827

なるほど。そーゆーことだったのね。
「夜に駆ける」の歌詞とMVの意味が
今ごろになってやっとわかりました。遅ッ。

「物語」というコンテンツを共有すると、
そこから派生した音楽やイラスト、動画などの
2次創作の表現が理解しやすくなります。

くやしまぎれに言えば、曲を聴くときは、
(とくに知らないアーティストの場合は)
歌詞の意味を勝手に想像しながら
自由に解釈する楽しみもあるのだけど。

ただ、その場合もなんらかの物語は必要です。

世の中にはいろんな物語があふれていますが、
どうやら、感動というものは
自分の人生の物語と他者の物語とが交差し、
響きあうことで生まれてくるようです。

ハルカと月王子のように。

「きっかけ」乃木坂46

作詞は、秋元康さん。AKB48グループや
坂道シリーズのプロデューサーであり、
ほとんどの曲の歌詞を手がけている怪物です。
(「きっかけ」を書いたのは58歳のとき)

キラキラしくて可愛いアイドルたちの歌も、
オジサン(秋元康)が書いた歌詞だと思うと、
受け止め方がずいぶん変わってきますね。
でもないか?

この曲は、夢に踏み出す人の背中を押す
「きっかけ」となるような応援ソングです。

《決心のきっかけは 理屈ではなくて
 いつだってこの胸の衝動から始まる》

とか

《走りたい時に 自分で踏み出せる
 強い意思を持った人でいたい》

とか。若者向けのポピュラーソングには、
こうありたい自分、生き方のモデルとなるような
みんなの願望を投影した主人公がよく出てきます。

それをアイドルやロックスターが演じれば、
けなげに見えたり、カッコいい!ってなるし、
学校の先生の説教よりも胸に響きます。

ショービジネスの世界には、アイドル歌手に
こんな曲を歌わせようと仕掛ける人たちがいて、
そこに気づくと、アイドルの魅力だけでなく
作り手の戦略や思惑にも興味がわいてきます。

たとえば、乃木坂46の「きっかけ」
欅坂46の「サイレントマジョリティー」
比べてみましょう。

リリース時期は「サイマジョ」が2016年4月、
「きっかけ」は2016年5月 (アルバム中の1曲)。

「サイマジョ」は欅坂46の衝撃のデビュー曲で、
アイドル事情にうといオッサン(私)の耳にまで
世間のザワつきが聞こえてきたほどでした。

乃木坂46が「フランス領の女子高」みたいな
可愛らしくて高級感のあるイメージだとすれば、
欅坂46は「イギリスのモッズ」寄りにして、
カッコ良く、スタイリッシュにという戦略だったとか。

※モッズは、1960年代半ばのイギリスの若者の間で流行したファッション。

「サイマジョ」の歌い出しは、

《人が溢れた交差点を どこへ行く?(押し流され)
 似たような服を着て 似たような表情で…》

「きっかけ」の出だしも同じ交差点です。

交差点の途中で 不安になる
 あの信号 いつまで 青い色なんだろう?》

しかし、主人公の性格は真逆です。

「サイマジョ」の主人公が
《僕ら》という男性人称を使って、
《この世界は群れていても始まらない》
《大人たちに支配されるな》《行動しなければ》
と、物言わぬ若者たちを鼓舞するのに対して、

「きっかけ」のヒロインは、
何かに追い立てられ、焦る自分やみんなを見て
笑ったあとで《客観的に見てる私が 嫌いだ》
自分自身を責めてしまうタイプ。

ただ、2つの曲の主人公の性格は真逆でも、
最終的なメッセージはよく似ています。

「サイマジョ」では、
《選べることが大事なんだ 人に任せるな》
《ここにいる人の数だけ道はある
 自分の夢の方に歩けばいい》と勇気づけ、

「きっかけ」では、
《生きるとは選択肢 たった一つを選ぶこと
 決心は自分から
 思ったそのまま…生きよう》
と、最後に自分で決意します。

「きっかけ」を「サイレントマジョリティー」の
アンサーソングとして聴いてみるのも一興です。

不安を抱える群衆の一人だったヒロインが
「サイマジョ」という「きっかけ」に背中を押され、
自分の夢に向かって歩きはじめるストーリー。

さらに面白いのは、
それをアイドルが演じるという逆説。
ショービジネスのシステムに組み込まれ、
大人たちが考えた戦略にそって
《大人たちに支配されるな》と歌い、
同じ制服を着せられて
《誰かの指示 待ち続けたくない》
指示された通りにステージで踊る少女たち。

でも(だからこそ?) 彼女たちの
心の叫び、パフォーマンスは胸を打つ。

アイドルという虚像がかかえこむ矛盾や葛藤が
彼女たちをひときわ輝かせるのでしょうか。
「夢に向かって」という殺し文句で
過酷な生き残り競争へと背中を押され、
そんなドラマもまた見世物になるという現実。

いたいけなアイドルの姿を見ていると
なぜだか哀しくなってしまうのは
私が古い人間だからかもしれません。

《今日も今日とて 親方さんに
 芸がまずいと 叱られて
 バチでぶたれて 空見上げれば
 泣いているよな 昼の月》
(「越後獅子の歌」美空ひばり)

「栞」クリープハイプ

今回のおすすめしてもらった曲は「栞」
数ある「さくらソング・卒業ソング」のなかでも
アップテンポのロックは珍しいんでないの。
よう知らんけど。

クリープをはじめて知ったのはカーラジオでした。
「尾崎世界観」というヘンな名前が印象に残って
曲がかかると、その耳障りなキーキー声にも驚いた。
もう慣れたけど、最初は「なんじゃこりゃ⁉」って。
あやうく事故りそうになったわ。嘘だよ。

この「栞」は2018年のFM802×TSUTAYAの
キャンペーンソングだったそうです。
尾崎を含む6人のミュージシャンが
つぎつぎと登場して歌う動画もよかった!

こっちはクリープのライブ版。

《簡単なあらすじなんかに まとまってたまるか
 途中から読んでも意味不明な2人の話》

と、他人が入り込めない特別な時間が、青春っぽい。

《句読点がない君の嘘は とても可愛かった》

《初めて呼んだ君の名前 振り向いたあの顔》

アップテンポな曲調で2人の思い出のシーンが
つぎつぎと重ねられていくにもかかわらず、
気持ちをうまく伝えられないもどかしさで、
なんだか居ても立ってもいられなくなります。

《桜散る桜散る お別れの時間がきて
「ちょっといたい もっといたい ずっといたいのにな」》

この「いたい」は、胸が「痛い」とも受け取れます。
ハイトーンの叫び声が痛々しく響くからでしょうか。

まるで栞のように2人の時間を分けた桜の花びら。
またそこから始められれば…という願いなのか。

ついでにクリープの他の曲も聴いてみました。
「社会の窓」のような自虐まじりの毒っ気もいいし、
「ラブホテル」に代表されるエロい歌詞も魅力的。

動画で見つけた「HE IS MINE」のライブ演奏では
《今度会ったら何をしようか
今度会ったら…》の後に続けて観客全員が
《××××しよう!》と大合唱していて笑った。

いいなー。ロックはこうでなくちゃ。

「NAO」HY

Lineで「HY-NAO」と送られてきたとき、
「…はい、ナオ?」と戸惑ってしまった曲。
エイチワイがバンド名で、NAOがタイトルね。

沖縄出身の4人組ミクスチャー・バンドだそうで。
ネットのHYの人気曲ランキングでは、2006年に
発表されたこの「NAO」が第1位に選ばれてました。

叶わない恋心を歌う切ないラブバラードで、
MVでは途中、ゴスペル風のコーラスが加わり、
これでもか!と盛り上げてくれます。

「NAO」の意味は、曲を書いた仲宗根さんの
女友達「ナオコ」さんの名前からとったものとか、
「N」何度も、「A」あなたを、「O」思う。の
頭文字だという説が飛び交っていました。

甘さも哀しさも濃厚で、“思い”のカロリーが高め。
恋愛欲がモリモリ旺盛なころであればハマるかも。
今日はガッツリ聴いて泣こう!とか。

ただ歳をとると、思い入れたっぷりのラブソングは
少々もたれてしまう場合があるのよねー。

この曲は、歌詞のいちばん最後にあるように
《大きな片想い》の歌。“大きな”というのは、
ヒロインが抱えている熱量の大きさね。

《わたしの気持ち知ってて》と歌詞にあるけど、
こんな女性に狙われたら、ヤワな男だったら引きそう。

《言葉ひとつそれだけでいいのに
  どちらとも言わないあなた》

とか

《諦めたくなっても
 あなたまたホラ、優しくするでしょう》

と言ってるけど、女に恨まれるのがこわくて
男がビビっているだけかも知れません。笑

そんな男の内面などは、実はどーでもよくて
絶望的なまでに「切ない恋心」に浸りきって
感情移入できるのが片想いソングのいいところ。

《叶わない恋だと知っているから
 気持ちはもっと熱く強くなり哀しくなり》とは
この歌に自分を重ねる聴き手の心情でもあります。

そんな恋を思い出して苦笑いする人もいれば、
こんな恋にあこがれる人もいることでしょう。

《恋がこんなに苦しいなんて
 恋がこんなに悲しいなんて
 思わなかったの》(HY「366日」)

HYの人気曲ランキング第2位の「366日」も、
「叶わぬ恋」を歌い上げるラブソングでした。

どうやらHYの黄金パターンか?と思いきや、
第3位の「AM11:00」を聴いてみると、
ガラリと変わってラップ入りの軽快なナンバー。
奥が深いじゃないか、HY。
さすがのミクスチャー・バンド。
もっと他にもいい曲があるかも知らん。

歌が好きで何回も何百曲もラブソングを聴いてると、
「はいはい、このパターンね」と気づくようになって
哀しいかな、新鮮な感動から次第に遠ざかってゆきます。
ホントの恋は、惰性とは無縁のはずなのだけど。

《でもね、あなたは遠くなるばかり》
(HY「NAO」)

すべては感動からはじまる。

今春、中学を卒業した15歳にLineグループで
おすすめの「卒業ソング・さくらソング」を聞いてみた。

◎「NAO」 HY(2006)
◎「栞」 クリープハイプ(2018)
◎「きっかけ」 乃木坂46(2016)
◎「ハルカ」 YOASOBI(2020)
◎「ありがとう~旅立ちの声~」ベリーグッドマン(2016)
◎「青空」ケツメイシ(2021)
◎「ライフ イズ ビューティフル」 ケツメイシ(2007)
◎「YELL」 いきものがかり(2009)

わたしが知っていたのは「YELL」くらい。
「これぐらいしか知りません!!」と、
謙遜なのか、居直っているのかよくわからない人もいて。
この文の2つの「!」に込められた思いとは
「好きなものは好き!」「いいものはいい!」
そんな心の叫びではなかったか…って違うか。違うな。

わたしが中学・高校のころは、思春期まっただ中。
素直に感動したり、好きだという言葉を口にするのが
めちゃくちゃハズかしかった思い出がある。

そのくせ、佐野元春の『SOMEDAY』のような
《ステキなことはステキだと 無邪気に笑える心がスキさ》
なんて世界にあこがれたりして。青い。実に青かった。

ちなみに、わたしがおすすめした曲は、
◎「最後の春休み」ハイ・ファイ・セット(1979)
◎「さくら」 ケツメイシ(2005)
◎「なごり雪」かぐや姫(1974)、イルカ(1975)
◎「卒業」 松田聖子(1982)

恥ずかしいほど、定番中の定番。
グルッと回って、王道のなかの王道。

べつに定番だから選んだわけではなくて、
単に「好きだから」で選びました、はい。ここ重要!
自分の経験をもとに「これは!」と思うものをすすめて、
同じ感動を味わってほしいと思ったわけ。

ただ、異なる世代、個性や趣味の違う相手に、
「好き」のもとになる感動はどのくらい伝わるのか。
感じたことをどれだけ言葉で説明できるのか…。

と、そんなことを思って、このブログでは、
「これ好き!」とか「これイイ!」と感じたもの
(音楽とか、本とか、映画とか、その他いろいろ)を紹介したり、
逆にメンバーのみんなから教えてもらいながら、
「!」の共有や交感を試してみたいと思います。